★ 『キ ネ マ 旬 報』 に 見 る ラ リ ー 映 画 の 批 評




 映画雑誌『キネマ旬報』が、ラリー・シーモンの映画を取り上げた記事があります。当時、ラリーの映画がどのように批評されていたかを知ることのできるたいへん貴重な資料です。入手できたのはたまたま1925年以降の長編ばかりですが、「主要外国映画批評」という欄に掲載されていることから、短編(2巻物)のコメディーは「批評」の対象にさえなっていなかったとも考えられます(数字は、雑誌の発行年月日および号数)。



1925(大正14).4.21 (第191号)
The Wizard of Oz(「笑国万歳」)


1925(大正14).5.1 (第192号)
The Wizard of Oz (「笑国万歳」)


1925(大正14).9.21 (第206号)
The Girl in The Limousine (「豪傑ラリー」)


1926(大正15).2.11 (第218号)
The Perfect Crown (「百鬼乱暴」)


1927(昭和2).5.1 (第260号)
Spuds(「ラリー将軍珍戦記」)


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笑国万歳(7巻)
チャドウィック特作映画
The Wizard of Oz


The Scarecrow……………Larry Semon
Dorothy………………… Dorothy Dwan
Her Mother……………… Mary Carr
The Wizard……………… Charles Murray
Prince Kynde …………… Bryant Washburn
Countess Vishuss ………Virginia Pearson
Prime Minister…………… Josef Swickard
The Tin Woodman ……… Oliver "Babe" Hardy
The Ambassador …………Otto Lederer
Colored Flunkey …………G. Howe Black
    Story by L. Frank Baum
    Scenario by Frank L. Baum, Jr. and Leon Lee
    Directed by Larry Semon
    Released in March, 1925.


[解説] フランク・ボーム氏著の小説及戯曲に基き氏の息子の小フランク・ボーム氏とレオン・リー氏とが脚色し、ラリー・シーモン氏が監督主演したもの。相手役にはドロシー・ドワン嬢、メエリー・カー夫人、チャールス・マレイ氏、ブライアント・ウォッシュバーン氏、ヴァージニア・ピアースン嬢、ジョーゼフ・スウィッカード氏等の人気俳優が出演して居る。シーモン氏最初の長篇喜劇である。
略筋――カンサス州のある農夫は暴風雨の晩に棄てられた赤児を拾つて育てる事にした。赤児の傍には十八歳に成つた日開くべしと記した封筒が置いてあつた。月日は流れてその赤児ドロシーは今は美しい乙女と成つて居た。当時オズと云ふ小国に於ては、正当な世嗣たる姫が行方不明に成り、総理大臣が暴威を振つて居たので人民の間の不平は高まつて居た。僅かにキンド王子の親切が人民が革命を起すのを防いで居た。ドロシーの十八歳の誕生日、封筒を明けて見ると、彼女がオズの姫君である事が認めてあつた。彼女の素性を知つた総理大臣は山賊を雇つて書類を奪はせに差向けた。人々は山賊の為に納屋に押込められた。突如大旋風が起つて納屋は空中へ捲き上げられ、遥々とオズの国まで吹き飛ばされる。オズの有名な魔法使ひは総理大臣に利用されて居たが、突如現れたドロシーはキンド王子の計ひで女王の位に即く事に成る。予てドロシーを恋して居た作男のラリーは我が恋を女王に打ち明けたが、女王は既にキンド王子に心を与へて居たので、彼の恋は納れられなかつた。(イリス映画部輸入)


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笑国万歳(7巻)
チャドウィック映画
The Wizard of Oz


発 売     1925年3月
原 作     フランク・ボオム氏
脚 色     小フランク・ボオム氏
         レオン・リー氏
監 督     ラリー・シモン氏
主 演     ラリー・シモン氏
紹 介     第191号


 例のジークフェルト・フォリースでもつて、六ヶ月も打ち続けたファースださうである。キートンやロイドやに劣らじ負けじとラリー・シモンが、それを買つて出た。大いに意気込んでやつたらしいが、出来はよくない。二巻物時代には無かつた味が出てはゐるが、全体としてはファースの域にまでは達しないスラップ、スティックである。助演者の顔ぶれは素晴らしいものであるが、皆殆ど死んでゐるといつても言ひ過ぎではない位に、目立たないのは気の毒である。所謂長篇喜劇としては普通以下の作品である。
――清水千代太――
興行価値――トリになる作品ではないが、ニコニコ大会にでも普通の添物としても良い興行成績をあげるだけの笑ひを持つてゐると思ふ。
(4月22日 大阪松竹座)


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豪傑ラリー(6巻)
ファースト・ナショナル映画
The Girl in The Limousine


発 売     1924年7月20日
原 作     エヴェリー・ホープ・ウード氏
脚 色     アリスン・コリスン氏
監 督     ノオエル・エム・スミス氏
主要俳優   ラリイ・シモン氏
          クレア・アダムス嬢
紹 介     第200号


 ラリー・シモン第一回のフィーチュアー・コメディーであるが、未だラリー・シモンは二巻物喜劇級の男である。この喜劇なんかいたずらに騒々しい趣味の下等なものである。彼がかうした喜劇に入らうとするには気の利いた頭脳を何処からか探して来る必要がある。
 二巻物喜劇の延長と見ればいゝ、監督も俳優の演技も平凡。撮影普通。
――岡崎真砂雄――
興行価値――下らなくてもドタバタでもそこそこ喜劇の有難さでお客を笑はせる事は出来る。相当の満足を与へる事は疑ひない。
(9月11日 東京舘 武蔵野舘)


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百鬼乱暴(6巻)
チャドウィック映画
The Perfect Crown


発 売     1925年11月
原 作     トーマス・クライラー氏
監 督     フレッド・ニュウメィヤー氏
主演俳優   ラリー・シモン氏
         ドロシイ・ドウン嬢
紹 介     第214号


 一体今迄作られたラリイ・シモンの長尺喜劇に吾々をして腹を抱へ笑はしめるものがあるかないか、彼の喜劇映画を沢山観ていないといふより長巻喜劇は是がはじめてゞある私には断言出来ないが、まあ此写真と似たり寄つたりのものなら、ラリーの喜劇とは「特徴をもたない喜劇」であるといひきれる。芸術家チャップリンは扨置くとして、ギャッグの支配で頤を解くロイド喜劇キートン喜劇等は、それぞれ異なつた謂はゞユニークな色彩香臭の特徴をもつている。観者を笑ひの世界に麻痺せしめる独自の装置によるダイナモステエションをもつている。ラリー喜劇にはそれがない。強ひてありとするも極めて稀薄だ。フィーテュア・コメディにして短尺喜劇の延長と化せしめる理由が爰にあるともいへやう。フレッド・ニュウメィヤーは下手な監督ではないのだが、現ロイド喜劇のサム・テイラーなどを対想すると、溌溂さがもう一息であつたり、観者より常に一歩先を制していなければならない観察上のデリカシイ(ギャッグ敷設に於ける)を欠いていたやうに感じられた。(写真版紹介号)
――木村千疋男――
興行価値――洗練されたセンスを笑はせるだけの魅力はないから、地方舘或ひは二三流舘に於て、より喜ばれるに違ひない。
(1月15日 帝国舘)

※タイトルの'Crown'は'Clown'の間違い。


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ラリー将軍珍戦記(6巻)
パテー映画
Spuds


Spuds……………Larry Semon
The Captain…… Edward Hearne
Medelon…………Dorothy Dwan
Bertha ………… Hazel Howell
The Spy…………Hugh Fay
    Directed by Larry Semon
    Photographed by H. F. Krenekamp and James Brown

発売日     1927年4月20日
監督者     ラリー・シーモン氏
主演者     ラリー・シーモン氏
          ドロシー・ドゥワン嬢


[略筋] 欧洲大戦の未だ酣なる頃仏蘭西戦線の塹壕に芋むき大将と綽名されてゐた兵士があつた。彼と雖も陣頭に立つて雄々しく戦ひ天晴れ功名手柄を立てやうと決心してゐたが不幸にして彼の役目は馬鈴薯の皮をむくことで如何とも仕方がなかつた。殊に彼の属する隊の大尉が彼を目の敵にして叱り飛ばしてコキ使ふので、芋むき大将は大不平だつた。或時敵陣から飛来した手擲弾と珍戦妙闘を演じて味方の危難を防いだが、執拗な大尉の虐待は相変はらず止まなかつた。ところが米軍の軍用タンクが一台独軍に奪はれたので、芋むき大将は取返して功名を挙げんと単身敵地に乗り込んで首尾よくタンクを奪還したのはよかつたが、芋むきの身の悲しさタンク操縦法を知らないので、無暗矢鱈にタンクは躍進し縦横無尽に独軍の戦地を荒らし廻つてヒョンな手柄を顕した。
批評省略。
興行価値――「弗箱シーモン」「百鬼乱暴」等で御馴染のシーモン喜劇で好箇のニコニコ映画である
(4月1日 京都松竹座)


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